突然フラフラして傾いて歩きだす ~特発性前庭疾患~

飼っている犬が突然フラフラと歩きだすようになってしまったら、あなたはどうしますか?

原因に心当たりがあれば落ち着いて対処できたとしても、何も知らなければ慌ててしまいますよね!?

今回は、ペットが急にフラフラする病気「特発性前庭疾患」についてお話します。


前庭について

まずは「前庭」の場所や、その働きについて説明します。

前庭は耳の中でも一番奥の、内耳にあります。前庭は「卵形嚢(らんけいのう)」と「球形嚢(きゅうけいのう)」と「半規管(はんきかん)」からなり、複雑な構造でできています。(半規管はリンパ液で満たされた3つの管が互いにほぼ直角に交わったもので、「三半規管」ともいわれています)卵形嚢と球形嚢には炭酸カルシウムでできた耳石が存在し、水平方向や重力の方向を感知します。

頭を動かすと管の中のリンパ液も動き、このリンパ液の動きに反応して神経伝達が行われることで「頭がどの方向に動いているのか」を脳に伝えます。これによって、体のバランスを保つことができるのです。

つまり前庭は、姿勢や体のバランスを保つことで平衡感覚を維持するための大切な器官です。また、目の運動や筋肉の協調を維持する働きもしています。


「特発性前庭疾患」とは、どんな病気?

では、「特発性前庭疾患」とはどのような病気なのでしょうか?

「特発性」という言葉には「原因不明」という意味があります。この病気は中年~老齢の時期に突然起こりやすく、品種に関係なく、どんな犬・猫でも起こり得ます。また、この病気は前庭に関わる病気の中では内耳感染に続いて、2番目に多い急性の前庭異常です。

発症してから24時間以内に病気の症状がピークになることが多く、その症状は軽度なものから重度なものまであります。また、ある季節に発生して他の季節は全く症状を現さないこともあります。

しかもこの病気を発症すると、平衡感覚や体のバランスを保つことができなくなるだけではなく、さまざまな脳神経異常が起こってしまうのです。その徴候は時に分かりづらいこともあるため、突然の発症に飼い主さんが慌てることも多いようです。


症状

前庭障害により体のバランスをうまく保つことができなくなるため、めまいやよろめきが起こります。そしてまっすぐ歩くことができなくなり、重症の場合は倒れこんでしまいます。さらに嘔吐なども起こり、時には症状が強く出る場合がありますが、それは一過性に過ぎません。

また、首の筋肉の収縮力が低下することで首が曲がってしまいます。これは動物特有の「捻転斜頚」と呼ばれるもので、そのほかに眼球がグルグル回転する「眼振」が見られます。

その後、眼振は数日で見られなくなりますがよろめきなどの運動失調は3~6週間続き、その後徐々に回復に向かいます。一般的に「特発性前庭疾患」は治癒する病気ですが、回復後も後遺症として生涯にわたってわずかな斜頚が続くことがあります。


診断方法

「特発性前庭疾患」は原因不明で起こる病気のため、確定することはできません。よって逆に他の病気を除外することで、この病気であると診断します。

以下のような検査から他の病気が除外でき、この病気と同じ症状とその経過が認められれば「特発性前庭疾患」と診断することができます。


  • 神経機能の検査から、前庭徴候以外の神経症状が認められないこと
  • 感染症が原因である急性内耳炎と似たような症状を起こすため、耳鏡検査やレントゲン検査により急性内耳炎を除外すること
  • 血液検査や尿検査において、他の疾患や炎症を思わせる所見が認められないこと
  • 頭部の外傷や中毒の可能性も考えられるために病歴を調べ、それらを除外すること


治療法

原因が分からないため、一般的に原因療法はないといわれています。

ただし支持療法として転倒などによる外傷を予防したり、十分な栄養を補給することが大切です。また、この病気により食欲がなくなってしまった場合には対症療法として補液を行います。炎症が完全に除外できない場合には抗生物質を投与します。中には甲状腺ホルモンの内服で効果がみられたという報告もあります。

「特発性前庭疾患」は時間と共に穏やかに改善していくケースがほとんどですが、症状が徐々に重くなるようであれば要注意です。その場合は脳に異常がある可能性があるため、改善が難しい病気にかかっていることもあるのです。

また、同疾患は老齢の時期に多く発生するため、このまま痴呆の症状が出て起立不能の状態が続き、寝たきりになるケースもあるために注意が必要です。


自宅でできる看護

この病気は時間が経てばたいていが回復する病気ですが、平衡感覚やバランスが取れなくなる病気のため、回復するまでの間は飼い主さんの自宅での看護が必要不可欠です。

よろめいて転倒することが多い場合は、倒れた時に外傷を負わないよう、角のある家具をクッションや座布団などやわらかいものでカバーしたり、イスやテーブルなどが置いてある場合は、できる限り片付けて広い場所を確保してください。

また、寝たきりになると床ずれができてしまうことも多くなります。そのため時間帯によって寝返りをさせたり、毛布や梱包用のエアシート(プチプチシート)を寝床に重ねて敷いたりすることで床ずれを軽減させましょう。


まとめ

「特発性前庭疾患」は原因が不明なため、どの動物でも起こる可能性があります。

しかもある意味、病院で受ける治療よりも、毎日一緒に暮らす飼い主さんや家族の看護がとても重要な病気と言えるのです。

ペットと二人三脚で治療と改善に向かって過ごすことで、早く治る可能性がある病気ですので、症状が出た後も慌てず、常に寄り添う気持ちが大切です。


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