犬の視覚は白黒ってホント?~ 犬が見ている景色 ~

五感といわれる感覚は「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」の5つですが、そのうち私たち人間は見ること「視覚」を主に使って周囲の情報を得ていているため、視覚がほかの動物よりも発達しています。フルカラーで物を見ることができるのは人だけで、犬はすべてが白黒にしか見えない、という話を聞きますが、実際のところはどうなのでしょうか?

今回は気になる犬の視覚についてお話をします。


物を見る仕組み

物が見える仕組みは、カメラの構造とほぼ同じだと思えばわかりやすいかもしれません。光の量を調節する絞りは虹彩、カメラのレンズは水晶体と呼ばれる部分にあたり、水晶体で屈折した光は目の奥の網膜で焦点を結びます。網膜はカメラのフィルムにあたり、ここは明るさや色を感じ取る視細胞でびっしりと覆われています。これらの細胞が光によって刺激されることによって、電気信号が視神経を通って脳に送られ、脳で現像作業が行われ、画像として感じることができるのです。


色を感じる仕組み

黄色、緑、青の3つの色は光の三原色とよばれ、すべての色はこの3つの色の組み合わせによってできています。人の場合、3色に対して色を識別する「錐状体(すいじょうたい)細胞」をそれぞれ3種類持っているため、フルカラーで色を識別することができるのです。

ところがそれに対して、犬を含めた多くの哺乳類は実は2種類の錐状体細胞しか持っていません。犬は黄緑色と紫色は違う色として区別をすることができますが、赤からオレンジ、黄色、黄緑、緑色にかけての色は1つの色としか感じることができません。そのため、たとえば紅葉したもみじの赤から緑にかけてのグラデーションを感じることはできず、赤・黄・緑の信号機の色を見分けることもできないのです。また、青と紫の区別をつけることも難しいようです。

ちなみに、盲導犬はどのようにして信号の判断しているかご存知でしょうか。実は、信号を判断しているのは盲導犬ユーザーなのです。自分の耳や感覚を頼りに判断し、盲導犬に指示を出しているのです。


犬は近視?

よく犬は近視と言われていますが、調べてみると品種によって遠視気味の犬種と近視気味の犬種がいるようで、狩猟犬はやや遠視気味であるという報告があります。また、すべての犬は近すぎるもの、70センチよりも手前にあるものに関しては焦点を合わせることができずに、ぼんやりとしか見ることができないようです。


広い視野

視野は目のついている位置によって決まります。人の場合、目は両方とも前を向いているため、視野は約200度、両目の視野が重なって立体視できる部分は約120度といわれています。それに対して犬は、人よりも左右に目がついているために視野は250度もあります。

また犬種によっても視野の範囲は異なります。視覚獣猟犬と呼ばれるサルーキやボルゾイなど鼻が長い犬種は、目で獲物を追って捕えていたため、視野が約270度と広いつくりとなっています。

ちなみに、動体視力、つまり動くものを目で追う能力は人の数倍も優れているという報告があります。


暗いところでも見える能力

ときどき、愛犬の写真を撮ろうとして、間違えて正面からフラッシュをたいてしまったことはないでしょうか?おそらく目が白く光って写ったはずです。これは犬の網膜のうしろ側にある「タペタム」と呼ばれる特殊な細胞の層が原因で起きる現象です。この層は光を反射する作用があり、網膜を通過した光を反射してもう一度網膜を刺激することによって、弱い光を増幅させる作用があります。このようにして犬は弱い光でも感じやすくするのと同時に、光を感じる細胞を増やして暗闇の中のかすかな光でも像として捕らえる能力をアップしています。


見えていなくても平気なの?

このように犬の見えている世界は、どうやら人とはかなり異なるようです。野生では陰に潜んでいる獲物を見つけたり、逃げる動物を追いかけたりしなければいけないはずですが、あまり視力がよくなくても大丈夫なのでしょうか。

犬はもともと夜行性の動物です。暗闇の中でにおいを頼りに獲物を追いかけたり、小動物がたてるわずかな音を聞き逃さずに捉えたりすることによって、視力だけに頼らずに暮らしています。視力以外の聴覚や嗅覚を非常に発達させることによって、必要な情報を手に入れて生活しているのです。


犬は視覚よりも聴覚や嗅覚を発達させることによって、世の中の情報を手に入れている動物です。私達が「あんなものを見た、こんなものを見た」と思うのと同じように「あんな臭いがした、こんな臭いがした」と思いながら生活しているのかもしれませんね。

ペットクリニック.com

獣医師発信のペット情報サイト