猫から人に移る病気~トキソプラズマ症

「動物から人へ病気が感染した」というニュースが注目されるたび、ペットの接し方に不安を感じる飼い主さんが多くいらっしゃいます。‟妊娠したら猫に触っちゃいけない”という噂を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。


今回は、そんな噂に関係する、トキソプラズマ症について勉強しましょう。


トキソプラズマに感染するとどうなるのか?

トキソプラズマ症は、目で見えない程小さい病原体(トキソプラズマ原虫)が原因の、人と動物の両方に感染する病気(人畜共通感染症)です。原虫は、アメーバやゾウリムシと同じように、1つの細胞で生きている生物(単細胞生物)の一種です。動物に寄生した途端体内で急激に増えますが、消毒液や胃酸で容易に不活化されるため感染は稀です。


人でも動物でもトキソプラズマに感染して1~2週間以内に、血液の中にトキソプラズマに対する抗体が作られます。一方、トキソプラズマは攻撃を受けないように、筋肉や脳内にシストと呼ばれるシェルターを作り、その中で待機するという戦略をとっています。待機中は暴動を起こさず、次のターゲットを探します。


人や動物がシストを含んだ動物の肉を食べると、トキソプラズマに感染してしまいます。肉を十分に加熱すればシストごとトキソプラズマは死滅するため、感染する機会は減少します。猫はネズミを、生きたまま捕えて食べるので、トキソプラズマに感染したネズミを食べた猫は感染源となります。また、人も生肉を食べる習慣が高い地域では、トキソプラズマ症の発生率が高いといわれています。


猫がトキソプラズマ症に感染するとどうなるの?

大人の猫がトキソプラズマに感染したとしても症状はほとんど出ません。例え症状が出たとしても、命にかかわることはありません。発症は、母子免疫がなくなる子猫、特に生後1~2ヶ月齢の頃が多いといわれています。基本的に治療は必要ないことが多く、猫がトキソプラズマに対する抗体を作り自然に治ることがとても多いです。


人がトキソプラズマ症に感染するとどうなるの?

人がトキソプラズマ症に感染したとしても、免疫がしっかりとした健康体であれば、症状がないか、出たとしても発熱、あるいはリンパ節が腫れる(10~20%)程度で済みます。

これだけを見ると、あまり心配する必要はないと思うかもしれませんが、免疫の働きが弱まっている人、妊娠している女性、あるいは妊娠予定の女性はトキソプラズマ症を防ぐために正しい知識を認識する必要があります。


人への主な感染経路は?

人がトキソプラズマ症に感染する経路は、主に以下の3つがあります。

  • トキソプラズマが感染した生肉を食べる
  • 猫、特に子猫の糞に含まれるトキソプラズマの卵(オーシスト)を摂取する
  • 母体から胎児へ移る(先天性トキソプラズマ症)

しかし、感染経路を正確に理解していれば、不安に思う必要はありません。


これから妊娠する可能性のある女性へ

先天性トキソプラズマ症は、妊娠の数ヶ月前、あるいは妊娠中に初めてトキソプラズマに母親が感染することによって発症します。感染初期にトキソプラズマが体内で増えるので、胎盤を通してトキソプラズマが胎児に移行し、流産・死産・水頭症などを引き起こす可能性があります。


しかし、先天性トキソプラズマ症の発生頻度はかなり低いです。ある統計では、先天性トキソプラズマ症の発生率は0.005%程度ともいわれています。


それは、最近猫カフェや人懐こい野良猫など、猫と触れ合う機会が多いため、気づかない間にトキソプラズマに感染して、すでに抗体を持っているからです。日本人の約20~26%が過去に感染したことがあるといわれていて、妊娠前(6ヶ月以上前)に感染しても胎児には影響はないため、過剰に心配する必要はありません。


逆に感染したことがなければ血液の中には抗体がありません。トキソプラズマ症の発生率が低いこともあり、妊婦のルーチン検査には、抗体の有無をチェックする検査は組み込まれていません。心配な方は検索をする前に、病院でトキソプラズマの抗体をもっているかどうか、チェックしておくと良いかもしれませんね。


猫から感染する危険性はどのくらい?

トキソプラズマはほとんどの哺乳類が感染しますが、猫科動物だけが感染源となるトキソプラズマの卵(オーシスト)を排泄します。

猫から人へは、猫が排泄した糞中のオーシストが人の口に入ることで感染します。

すべての猫がオーシストを排泄するわけではなく、初感染した猫(ほとんどが子猫)だけが、しかも一生のうちで一定期間(初感染直後から1~3週間)だけしか排泄しません。猫の20~50%が既にトキソプラズマに感染しているともいわれています。また、すでに感染していた猫は、卵を排泄することはありません。


つまり以下の条件が全てそろわなければ、猫から人へのトキソプラズマ感染は起きないのです。


  • 妊娠初期である
  • トキソプラズマの抗体を持っていない
  • トキソプラズマに感染したばかりの子猫を飼い始めた
  • その子猫がオーシストを含む糞を排泄した
  • その糞(オーシスト)が口に入った


まとめ

妊娠していない方や、トキソプラズマ症に感染したことのある妊婦の方は、そこまで心配する必要はありません。しかし、まだ感染したことのない妊婦の方が初めて感染すると、注意が必要です。


では、日ごろの生活の中でトキソプラズマに感染しないために、以下の項目については再確認しておきましょう。

  • 猫の糞は毎日片付ける
  • 生肉は食べない
  • 生肉を触ったら手を洗う
  • まな板の肉を扱う面と野菜を扱う面は別にする
  • 妊娠初期に猫を飼い始めることを避ける
  • 公園の砂場や趣味のガーデニングで土や砂を触る機会が多い方は、こまめに手を洗う

一般的な感染ルートは生肉からであり、猫の糞からの感染ルートは稀です

実際、猫を飼育することで感染率が上がるという傾向はみられなかったという報告もあります。したがって、必要以上に猫を遠ざけず、これまでと変わらず猫との暮らしを送りましょう。

ペットクリニック.com

獣医師発信のペット情報サイト